こんばんは、モルモル(@morumorublog)です。
昨今は、COVID-19の話題で持ちきりです。
先日、既承認の効HIV薬の臨床研究結果が公表されましたが、COVID-19に対して期待する治療効果は得られなかったようです。
さらに、外出自粛やモノの不足など良くないニュースが続いており、普段当たり前にしていることが突如としてできなくなることへの恐怖感を痛感しています。
COVID-19は新型コロナウイルスが原因の感染症です。
感染経路は飛沫感染、接触感染が考えられているようです。
(新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き 参照)
COVID-19に限らず、感染症には様々な感染経路があります。
その中でも、特殊な感染経路の感染症として「蚊媒介感染症」があります。
蚊媒介感染症とは、病原体を保有する蚊に刺されることによって起こる感染症のことです。
主な蚊媒介感染症には、ウイルス疾患であるデング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症、日本脳炎、ウエストナイル熱、黄熱、原虫疾患であるマラリアなどがあります。
これらの感染症は主に熱帯、亜熱帯地域で流行しています。蚊媒介感染症|厚生労働省より引用
ウイルスを有する蚊を媒介する感染症ということで非常に厄介な感染経路です。
感染予防には、防虫スプレーなどの「刺されないようにする」対策があるようです。
流行地での予防は、肌の露出を少なくし、防虫剤を適宜使用するなど、蚊にさされないように注意することが大切です。具体的には、長袖、長ズボンの着用、虫除けのスプレーや軟膏の塗布、殺虫剤や蚊取り線香などでの対応などがあります。
このような蚊に刺されないような対策に加えて、蚊の生息地域を追跡調査する試みも行われているようです。
追跡調査は既に、とある方法が確立されていたようですが、近年、市民がスマホアプリを用いて病原体を媒介しうる蚊の生息域を報告する画期的なシステムが検討されているようです。
今回は、このシステムに関する以下の論文について紹介します。
※当該論文はNature Communications誌からフリーアクセス(CCライセンス)が可能です。以降の内容で示すFigureは、当該論文より引用したデータを一部抜粋・改変したものを記載しています。
ヒトスジシマカと感染症
病原体を媒介する蚊の一種に「ヒトスジシマカ」がいる。
ヒトスジシマカは、アルボウイルス(ジカ熱、デング熱、チクングニヤ熱などの感染症の原因ウイルス)を媒介する昆虫で、直近の30年間に西太平洋諸国及び東南アジアからヨーロッパ、アフリカ、中東、北米・中南米へ生息域を拡大したようだ。
蚊媒介感染症が流行している現状において、感染拡大を未然に防ぐ方策が重要である。
そのうえでは、蚊の地理的な生息域の拡大範囲を監視することは極めて重要である。
ヒトスジシマカの生息地域の追跡方法
病原体を媒介するヒトスジシマカの生息地域を把握することで、病原体拡散の早期警告(リスク対策)に役立てることができる。
ヒトスジシマカの生息地域の追跡方法には、従来の方法である「オビトラップ」と市民参加型のスマホアプリ「モスキートアラート(Mosquito Alert)」を用いた新しい方法の2種類がある。
従来の追跡方法:オビトラップ
オビトラップは、水で満たされた中の暗い容器で、蚊が卵を生むことに適した環境を有した捕獲デバイスである。
卵が産み付けられた後、卵はメッシュを通過して水に落ち、幼虫、蛹へと発生する。
成虫の蚊はメッシュを通り抜けることはできず、容器にトラップされる仕組みである。
オビトラップは1966年に開発されて以来、病原体を媒介する蚊の個体数を把握するために利用されてきた。さらに、蚊を殺傷する目的のオビトラップもあるとのこと。
監視目的のオビトラップは、蚊の集団を検出できるため、病気の発生を未然に防ぐための早期警告信号として機能する。
定期的に収集されるオビトラップの個体数データを分析して、蚊の繁殖のホットスポットと、蚊の侵入危険性が高いリスク領域を特定できる。
(Ovitrap - Wikipediaを参考とした)
新規の追跡方法:モスキートアラート
モスキートアラートは、病原体を媒介しうる蚊の生息地域を特定することを目的として、無料で提供されるスマホアプリである。
利用者(市民)は、疑わしいと思われた蚊の写真を提供することで、データベースの構築に貢献することができる。
この際、GPSによる位置情報、その他の詳細情報も同時に送信されるようだ。
送信された写真は、昆虫学者の専門チームにより精査され、検証結果が利用者にフィードバックされた後、地図にマッピングされるとのこと。
このデータベースを元に、近隣地域や都市での蚊の生息域拡大を監視、制御できるようになる。
新旧の追跡方法の比較検討
モスキートアラートを用いた新しい蚊の追跡方法を検討するにあたり、いくつかの観点から従来方法との比較検討がなされた。
経済的コスト
新旧の追跡方法の経済的コストの比較がなされた。
● モスキートアラート
費用予算 :300,000 ユーロ(2014年~2015年)
カバー面積 :487,775 km 2(スペイン)
平均コスト :約1.23 ユーロ(1ヶ月、1km2あたり)
その他 :市民参加型(労働力が分散、少ない)
● オビトラップ
平均コスト :約9.36 ユーロ(1ヶ月、1km2あたり)
その他 :専門家が逐一設置、確認する必要がある
オビトラップはモスキートアラートの約8倍のコストがかかる。
さらに、オビトラップの費用のほとんどは、繰り返し発生する人件費であり、面積と時間に比例して増加する。
一方で、モスキートアラートのコストは、コミュニティの構築とアウトリーチ、及び技術への非継続的な投資が主であり、常に増加する参加者を維持し、引き付けることを目的としているものである。
早期警告の検出
2014年から2015年の期間のスペインの自治体における、ヒトスジシマカが検出された地域の比較検討がなされた。
オビトラップで検出された地域 :青の領域
モスキートアラートで検出された地域 :黄色の領域
両方で検出された地域 :赤の領域
(Citizen science provides a reliable and scalable tool to track disease-carrying mosquitoes | Nature Communications Figure1より引用・一部改変)
オビトラップは通常、既知の生息領域に隣接する地域にのみ設置されます。
(おそらく、遠方まで設置すると膨大なコストがかかるため、最もリスクの高い近隣の地域を優先的に監視するという考えかと思います)
一方で、モスキートアラートは、既知の生息領域から離れた地域においても、検出できていることがわかる。
これは、長距離を飛び越えて、蚊の生息域拡大・侵入プロセスが発生する可能性があることを示しており、モスキートアラートは早期警告の検出の観点で優れている可能性がある。
各追跡方法の検出感度
従来法であるオビトラップと、新規方法であるモスキートアラートの蚊の検出感度について比較検討がなされた。
特定の市町村における2週間のモスキートアラートのレポート結果と、オビトラップの検出結果を比較すると、両者の検出感度(特異度)はある程度相関はしているようだ。
(一方、オビトラップで卵を検出できている地域において、モスキートアラートで報告される確率が低い場合があることもグラフから読み取れます)
(Citizen science provides a reliable and scalable tool to track disease-carrying mosquitoes | Nature Communications Figure7より引用・一部改変)
モスキートアラートは低コストかつ広範囲の監視が期待できる
以上の結果より、スマホアプリのモスキートアラートは、現場に駐在する専門家が蚊の卵を監視する従来の方法(オビトラップ)よりも低コストで実施可能である可能性が考えられた。
また、監視の質(感度・特異度)はある程度は互角で、さらには地理的範囲(早期警告の検出)の点でモスキートアラートは優れていることも考えられた。
一方で、モスキートアラートは、オビトラップが陽性であった一部の地域でヒトスジシマカを検出できなかった(感度に問題があった)。
この問題を解決するには、モスキートアラートと従来のオビトラップを組み合わせて、2つのアプローチが相互に補完できるようにすることだ。
これにより、蚊媒介感染症に対する一般人の理解が深まると同時に、特に公的機関がアクセスできない地域(私有財産など)から、蚊を駆逐する際の管理努力への一般市民の参加が促進されることなどのメリットが期待される。
以上、蚊媒介感染症の拡大防止を目的とした、スマホアプリを用いた画期的な監視方法に関する論文の紹介でした。
これらの感染症は熱帯、亜熱帯でよく見られるものであり、日本国内での感染・流行の認められていないものがほとんどのようです。
ヒト間の感染であれば、お互いに距離を取る・隔離する方策を講じれば、感染拡大はある程度防げるものと思いますが、相手が蚊となると非常に厄介です。
スマホアプリを使うことで監視領域は格段に広がると思いますが、市民の参加継続性や検出感度など、懸念点はまだまだあるようなので、早期の改良を期待します。
それでは!
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