こんばんは、モルモル(@morumorublog)です。
皆さんは、ウイスキーは好きでしょうか?
私は普段1人でお酒を飲むことはないのですが、飲み会のときには、調子がいいとウイスキーを飲むこともあります。
ウイスキーの知識は全くないのですが、ウイスキー愛好家の中では、「ウイスキーに数滴の水を入れる」という嗜み方が推奨されることがあるようです。
つまり、ウイスキーを水で希釈すると味わいが増すということのようです。
私はこの楽しみ方すら知らず、基本ストレートで飲む派だったのですが、どうやら有名な嗜み方のようですね。
一方で、"なぜ水を加えると味わいが増すのか?" という疑問に関してはよくわかっていなかったようで、この理由を科学的に検証したチームがあるようです。
というわけで今回は、以下の論文を紹介したいと思います。
※当該論文はScientific Reports誌からフリーアクセス(CCライセンス)が可能です。以降の内容で示すFigureは、当該論文より引用したデータを一部抜粋・改変したものを記載しています。
ウイスキーの作り方
一般的なモルトウイスキーの作り方は以下の通りのようだ。
① 原料 :麦芽、水
② 糖化 :麦芽を粉砕し水と合わせ、酵素によりでんぷんを糖化される
③ 発酵 :麦汁に酵母を加え、アルコールを発生させる(7%)
④ 蒸留 :アルコールの揮発性を利用し、アルコールを凝縮させる(65~70%)
⑤ 熟成 :蒸留したものを樽に詰め長時間じっくり寝かせる
蒸留されたばかりのモルトウイスキーのアルコール度数は、だいたい70%くらいだが、熟成の過程でアルコールは徐々に蒸発し、60%台にまで低下する。
さらに、熟成したウイスキーをボトルに詰める際、少量の水を加えてアルコール度数を約40%台にまで希釈するとのこと。
これは、ただ単にウイスキーを水増ししているわけではなく、上述したように、「水を加えると味わいが増す」という経験則に基づいて、あえて行っている操作のようだ。
味わいの深さの原因はグアイアコール
では、ウイスキーの味わい深さの原因は何なのでしょうか?
その正体は、「グアイアコール」という化合物であることが以前から知られているそうだ。
(Dilution of whisky – the molecular perspective | Scientific Reports Figure.1より引用)
この化合物のおかげで、ウイスキーに独特のフレーバーが与えられているらしい。
(たしかに芳香族系の構造をしている)
このグアイアコールは、両親媒性分子(親水基と疎水基の両方を持つ分子)であり、水にも油にも溶けやすい分子とのこと。
これを踏まえ、グラスに注がれたウイスキー(水とアルコールが混在する液体)におけるグアイアコールの分布について調べた。
水とアルコールの不均一な分布
著者らは、水 - アルコール - グアイアコールの混合溶液におけるそれぞれの分子挙動を、「分子動力学シミュレーション」を用いて検証した。
(2013年のノーベル化学賞を受賞した技術のようです)
分子動力学シミュレーション
私たちの体の中では、無数のタンパク質が働いています。タンパク質をつくっている何万個もの原子は止まっているわけではなく、いつも少しずつ位置を変えています。タンパク質の周りにある水分子や脂質分子もいつも少しずつ動いています。こうした原子・分子の動きをコンピュータの中で再現するために使われるのが「分子動力学シミュレーション」です。この手法では、まず、観測データなどをもとに原子の最初の配置を決めます(①)。そして、1個の原子に他の原子から及ぶ力を計算します(②)。原子どうしの間に働く力には、原子が分子をつくるときの化学結合の力、原子がプラスやマイナスの電気を帯びていることによる静電気力、分子どうしの間に働く力などがあります。これらをすべて合計します。
次に、その力を受けた原子がどのように運動するかをニュートンの運動方程式に基づいて計算します(③)。これにより、最初の配置から一定の時間が経ったあとに、原子の配置がどう変わったかがわかります。この配置を新たな出発点として、また②と③の計算を行います。非常に短い時間の刻みでこれを繰り返すと、原子が徐々に動いていくようすを再現できるというわけです。
分子動力学シミュレーションの結果、以下のように、水とアルコール(エタノール)が不均一に分布していることがわかった(アルコール度数27%を想定)。
それぞれの分布を見ると、エタノールが混合液中の表面部分(縦軸の上端と下端のあたり)に特に集中して分布していることが見て取れる。
(Dilution of whisky – the molecular perspective | Scientific Reports Figure.2より引用・改変。赤が酸素、白が水素、水色が炭素を示す)
このように、ウイスキーを想定した混合液中では、水 - アルコールが不均一な分布を示すことが考えられた。
アルコール度数が下がるとグアイアコールは液表面に分布する
次に、水 - アルコールの分布に加えて、味わい深さの原因であるグアイアコールの分布の関係性を検証した。
上述した分子動力学シミュレーションの解析結果の縦軸を横軸に置き換えて、アルコール度数を変化させた際の水 - アルコール - グアイアコールの分布の関係性をシミュレーションした。
その結果、アルコール度数0~45%までは、グアイアコール(黒線)が液表面に比較的多く分布する傾向がみられた。
一方で、アルコール度数が45%を超えると、グアイアコールは徐々に液中(内部)に分布するようになる。
(Dilution of whisky – the molecular perspective | Scientific Reports Figure.3より引用・改変。赤が水、青がエタノール、黒がグアイアコールを示す)
このことから、グアイアコールはアルコール度数に応じて混合液中の分布が変化すること、さらにアルコール度数が低いほど(45%未満)、混合液の液表面付近に多く分布する性質を持つことが考えられた。
(この理由として、グアイアコールが水とエタノールとどの程度の親媒性があるのか電子密度の観点から解析していたデータも有りましたが、自信がないので省略します)
この知見から、ストレートウイスキー(例えばアルコール度数50%)に水を数滴加えると味わいが変わる仕組みとして、アルコール度数が低下することで、グアイアコールが液表面(つまり、口に触れる部分)に多く分布することが示唆された。
以上、"ウイスキーに水を加えると味わいが変わる" という経験則に関する雑学の紹介でした。
ちなみに、このグアイアルコールはスコッチウイスキーに多く含まれているようです。
ウイスキーど素人の私は、この文献をみて、グアイアコールが味わいの原因なのであれば、グアイアコールを人工的に多く添加したウイスキーを作ってしまえばよいのでは?と思ってしまいました。
一方で、"飲む前に少し水を加えて味わいの変化を楽しむ" という一連の動作はなんともおしゃれな感じがしますし、最初から味が完成されているのとはまた違う楽しみ方なのかもな、とも思いました。
外出自粛で家で過ごす時間が増えると思いますので、ウイスキーに水をくわえると本当に味わいが変わるのか、試してみてはいかがでしょうか?
それでは!
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