新米研究者の日常ブログ

新米研究者の雑記ブログ。某メーカーで研究者として勤務して早3年。研究者として経験したことをベースに、仕事や生活に役立つ知識・グッズの紹介、科学の雑学、日々感じることをひたすらに発信します!

ミヤマオウムは「確率」を理解する動物?

f:id:Yuuki0455:20200503075224p:plain

こんばんは、モルモル(@morumorublog)です。

 

雑学関連の記事も、少しずつ充実してきました。

 

私が動物好きであることもあり、動物に関する雑学が多めになっております。

ということで今回は、ミヤマオウムという鳥に関する科学論文を紹介します。

www.nature.com

※当該論文はNature Communications誌からフリーアクセスが可能です。以降の内容で示すFigureは、当該論文より引用したデータを一部抜粋・改変したものを記載しています。

 

2020年3月、オークランド大学の研究で、まさに今月報告された論文です。

 

ニュージランドに生息するミヤマオウムという鳥は、「確率」を理解する能力があり、それに基づいて行動選択していることが報告されたようです。

 

大型の類人猿以外で、確率を理解して選択するという統計的推論を行うことを初めて報告した論文のようです。

 

 

統計的推論の能力はヒト乳幼児で検討されている

統計的推論(不確実な事象に対して推論を踏まえて行動選択する能力)については、人間の意思決定において重要な部分であり、既に研究がなされている。

 

乳幼児を対象とした研究から、この能力は人間の成長過程のなかでも、想像よりも早い段階で形成されることがわかっているようだ。

 

例えば、乳児は、選択対象の絶対頻度ではなく、選択対象間の相対頻度に基づいて、最も可能性が高い対象を選択する傾向を示すとのこと。

(成功報酬が得られる確率が最も高いと思われるものを自分で推論し選択する能力をもっているということだと思います)

 

さらには、何らかの制約によって、選択対象間の相対頻度が変化した場合であっても、その変化に応じて最も可能性が高い対象を再選択する能力も持つとのこと。

(成功報酬が得られる確率が仮に変わってしまった場合でも、最も可能性が高い対象を再選択できる、臨機応変さを有するということだと思います)

 

このように、人間(類人猿)において、統計的推論の研究モデルがあり、ある程度知見が得られているとのこと。

 

一方で、これまでの研究から、統計的推論は人間(類人猿)のみが有するものと考えられていたようで、他の動物種がこの能力を有しているのかどうかは定かではなかった。

 

そこで、高い知能を持つことでよく知られているミヤマオウムをモデル動物として選択し、人間(類人猿)以外の動物が統計的推論を行う能力を有しているのかを検証したようだ。

 

 

ミヤマオウムは確率に基づき統計的推論を行う

ミヤマオウムを用いた今回の研究は、上述のヒト乳幼児を対象とした研究とよく似た方法とのこと。

 

Blofeld、Bruce、Loki、Neo、Plankton、Tazという名前の6種類のミヤマオウムに対して、トークン(小さな木片)を用いて以下のような訓練をほどこした。

 

ブラック色のトークン ⇒ 報酬が得られる

オレンジ色のトークン ⇒ 報酬が得られない

 

報酬が得られることをブラック色と関連付け、報酬が得られないことをオレンジ色と関連付けさせた。

 

そして、2つの透明な広口瓶にブラックとオレンジのトークンを混在させ、それぞれの瓶からオウムに見えないように1個のトークンを取り出し、それぞれの手の中に握り、オウムに差し出して選ばせる実験を行った。

 

以下図のようにブラックとオレンジのトークンの相対頻度は、瓶によって変えている。

 

f:id:Yuuki0455:20200311204655p:plain

 

その結果、ミヤマオウムは、報酬が得られるブラックトークンの出現頻度が高い広口瓶から取り出されたトークンを選ぶ傾向が高かった。

 

さらに、必ずしも絶対頻度ではなく、相対頻度に基づいていることも明らかになった。

 

つまりは、確率に基づいて、報酬イベントを選択していることを示唆している。

 

 

状況変化に対しても統計的推論で対応できる

次に、広口瓶の中に仕切板(図の水色)を水平に差し込んで、仕切板の上にあるトークンだけを取り出せるようにする状況を作った。

 

この作業により、報酬が得られるトークンの割合を変えたところ、ミヤマオウムは、この物理的な制約に感づくことができ、報酬の得られるブラックトークンが取り出される確率の高い広口瓶の方を選択する傾向が強かった。

 

f:id:Yuuki0455:20200311210131p:plain

 

つまり、物理的制約による状況変化が生じても、統計的推論に基づき臨機応変に対応したということだ。

 

「状況に応じて」という観点の別の検討から、驚くべきことに、ミヤマオウムは、過去に報酬の得られるトークンを差し出すことが多い「バイアス」を持っている実験者が差し出すトークンを選ぶ傾向も示したとのことだ。

 

このことからもミヤマオウムが相対数、つまりは確率に基づいて行動選択していることが示唆される。

 

 

 

以上、ミヤマオウムという鳥類の統計的推論能力に関する雑学でした。

 

動物は人間が想像するよりも複雑なことを理解し、行動しているんだなと痛感する内容であり、このような動物学の分野は興味深いですし、面白いです。

 

「動物」というと、あたかも思考力や意思がないような意味合いも多少含まれるような印象がありますが、実際は想像を絶するような能力・知能を有しているのかもしれません。

 

ミヤマオウムは、以前から知能が特に高いと言われていたようで、このような驚きの結果が得られたうえでも著者らは「特に驚きではなかった」とのコメントも残しているようです。

 

今後も動物たちの知られざる能力に関する研究が進むのが楽しみです。

 

それでは!

にほんブログ村 科学ブログへ