こんばんは、モルモル(@morumorublog)です。
昨今のCOVID-19の状況について、良くないニュースが続いております。
外出自粛やマスク着用の徹底など、感染拡大を防ぐ手段として重要なものと思いますが、事態の終息には、治療薬・ワクチンの開発が急がれると感じます。
現行のウイルス感染症治療薬・ワクチン開発状況としては、大雑把に以下の2種類と思います。
・既に臨床使用されている薬(既承認薬)を新型コロナウイルスに対して検証する
・新型コロナウイルスに対する新薬を開発する
前者は、既にヒトにおける有効性・安全性のプロファイルがある程度把握できているものなので、新型コロナウイルスに対する検証試験も比較的スムーズになることも理解できます(それにしても驚異的なスピードだとは思いますが)
後者は、全く新しい薬を開発するため、長い時間をかけて、動物や細胞を使った実験で有効性・安全性を確認し、ようやくヒトで検証することができます。
にも関わらず、特にワクチンについては、既に臨床試験を実施しているものもあるようで、そのスピードに驚きます。
モノによって異なりますが、通常の医薬品開発であれば10年以上はかかるプロセスを、ここ数ヶ月で急速に進めている状況と思います。
その背景には、各国行政や医薬品規制当局の特例的な配慮があったり、治療薬・ワクチン開発に通常の時間的リソースを割いて感染拡大が進んでしまうリスクよりも、時間短縮により開発段階で多少不具合(有効性、安全性)が生じた場合のリスクの方が低い、といった判断があってのことではないかと推察します。
もっともリーズナブルなのは、既承認薬で有効性が認められることだと思うので、今はただただ実施中の臨床試験で期待する結果が得られることを祈るばかりです。
ということで今回は、「ただ語りたいだけ その3」として、COVID-19に対する前向きな情報として、治療薬・ワクチン開発状況と、それに付随して感じることについて触れてみたいと思います。
注:なるべく正しい表現に気を使いますが、間違った情報があるかもしれないので鵜呑みにはしないでいただきたいです。また一部情報ソースはなく、ただの個人的な意見も含んでいます。
新型コロナウイルスに対する治療薬・ワクチンの開発状況
今現在、世界中の企業や大学が共同で非臨床試験、臨床試験(研究)を実施しているわけですが、いまいち全体の状況がわかりづらいなと思っていたところ、開発動向を一覧にしているWebサイトを見つけたので、紹介します。
現在開発中の新型コロナウイルスに対する治療薬・ワクチンの情報を一覧で確認することができるようです。
定期的な情報更新が行われていることも読み取れます。
表を見ると、治療薬(法)は約90、ワクチンは約50ものプロジェクトが、少なくとも非臨床試験(動物や細胞を用いた実験、ヒトに投与する前の段階)以降の開発ステージに進んでいることが読み取れます。
その他に、開発元(メーカーや大学)、開発ステージ、FDA(米国の医薬品規制当局)承認状況、情報ソースなども示されています。
私が無学であったこともありますが、まずこれだけのプロジェクトが進行していること自体が驚きでした。
最近特に注目されている既承認薬(アビガンなど)については把握しておりましたが、その他多くの低分子薬、抗体医薬品等が名を連ねています。
いずれも、新型コロナウイルスに対する効果を示唆する何かしらの手がかりを踏まえたうえでのプロジェクトと思うので、有用な薬が見いだされることを期待します。
mRNAワクチンの可能性
治療薬に対して、感染予防目的であるワクチンに関しては、まだ非臨床試験段階のものがほとんどのようです。
その中でも、NIHの米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)とバイオメーカーのモデルナ社が開発中の「mRNA-1273」という候補ワクチンは、唯一臨床試験が開始されているようです。
これまでのワクチンといえば、ウイルスそのものを化学的に処理して弱毒化、あるいは無毒化して作られたものであって、そのように作られたワクチンを注射し、体に免疫させる仕組みです。
一方で、「mRNA-1273」を初めとするmRNAワクチンは、タンパク質を作る役割をもつ「メッセンジャーRNA(mRNA)」をワクチンとして利用するようです。
つまり、従来のような修飾したウイルスそのものを使っていません。
mRNAを投与することで、体内の細胞にウイルス抗原タンパク質を作らせ、免疫させる新しい機序のワクチンとのことです。
このmRNAワクチンは、従来のように不活化ワクチンを作り培養する必要がなく、開発・製造コストが大幅に削減されるようで、メリットが大きいことが伺えます。
さらに、ウイルス抗原を特徴づける遺伝子配列がわかれば、その部位に対するmRNAを作製すればよいわけで、変異などの状況変化にも対応しやすいそうです。
(参照:新型コロナウイルスとたたかうmRNAワクチン開発に全力疾走する米科学者(片瀬ケイ) - 個人 - Yahoo!ニュース)
このようなメリットがあるmRNAワクチンですが、新規性の高い技術であるため、有効性・安全性の検証はより慎重になる必要があるとは思います。
ワクチンということで、長期的に何度も投与されるものではないため、安全性面でのハードルは多少低いのかもしれませんが、それでも、たった2, 3ヶ月程度で臨床試験を開始しているスピードには驚くばかりです。
mRNA-1273だけではなく、その他のプロジェクトも多く進行中のようです。
特に驚いたのは、マイクロニードルアレイという微小な針構造にワクチンを搭載し、皮膚からワクチンを送達するプロジェクトです。
このワクチンはmRNAではないようですが、ウイルスの感染においてクリティカルに働く「スパイクタンパク質」を模倣したタンパクを用いたワクチンのようです。
皮膚は、樹状細胞などの免疫担当細胞が多く存在する部位なので、より効果的にウイルスに対する免疫を獲得させることをコンセプトとしているようです。
このように、多数のプロジェクトが進行中であり、中には新規性の高いものもあるため、時間はかかってしまうかもしれませんが、救世主となるような治療薬・ワクチンが生まれる可能性はまだまだあると感じます。
治療薬の開発遅くない?という意見があることにも驚く
SNSやネットを眺めていると、日本行政の対応の遅さを指摘するようなコメントをよく見かけます。
その中には、有望かもしれない薬に対しても "開発が遅い" "もっと早くしろ"といったコメントも、ちらほらみかけます。
コメントを書いた方々が、医薬品開発の知識をどの程度もったうえでの考えなのかはわかりませんが、少なくとも通常の開発スピードを鑑みると、驚異的なスピードで多くのプロジェクトが進んでいるように私には見えます。
もちろん、開発が早いことに越したことはないですが、人間に投与するものなので、特に安全性に関しては慎重に検証する必要があります。
メーカー研究職の端くれでしかない私ですが、今現在治療薬・ワクチン開発に携わっている方たちは、「世の中から求められるスピード」と「正しく有効性・安全性を評価する慎重さ」の板挟みの状況にあるのではないかと想像します。
開発に関われない私達は、ただ有用な治療薬・ワクチンを待つことしかできず、声を発することしかできない立場なのですが、少なくとも開発スピードに関して文句を言うのはお門違いな気がした次第です。
個々人で不満を爆発させたくなる時期ではありますが、無闇に文句をいうのではなく、良いニュースも良くないニュースも、その情報や背景を正しく理解することが最初に実践すべきことではないかと思います。
冒頭で紹介した、Milken Instituteの治療薬・ワクチン開発動向一覧のサイトにも以下のような一文があります(下手な日本語訳ですみません)。
現在の公衆衛生上の事態の緊急性を鑑みると、データを最新形式で一般市民に公開することが重要であると考えています。
(COVID-19 Treatment and Vaccine Tracker | Milken Instituteより日本語訳を引用)
今では当たり前のように治療・予防をある程度制御できているインフルエンザも、有用な治療薬・ワクチンが見いだされたおかげです。
新型コロナウイルスについても、人類が克服してきた他の疾患のように有用な医薬品が登場することを期待しています。
以上、新型コロナウイルスの治療薬・ワクチンの開発動向の紹介と、それに付随して感じることを記載しました。
"前向きな情報を" と言っておきながら、多少批判めいた内容も含んでしまいましたが、全体の意図としては、治療薬・ワクチンという観点から、少しでも希望的な情報を発信したいという一心です。
良くないニュースや外出自粛など、うんざりしてしまう時期ですが、本記事が少しでも気分が上がる内容になれば幸いです。
それでは!
~「ただ語りたいだけ」シリーズ継続中~